東京都市町村職員研修所
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赤羽 紘 講師
<コラム>役所と民間の違い
<研修のエッセンス>講義のツボ 仕事の醍醐味!「政策法務」
◆ プロフィール
特別講師
赤羽 紘(あかはね ひろし)
 経歴
  昭和20年(1945年)長野県伊那市生まれ、南アルプスと中央アルプスのふもとで天竜川のせせらぎを聞きながら育つ
昭和39年(東京オリンピックの年)上京
昭和43年小平市役所に就職 保険課、福祉事務所、図書館、防災対策室、文書課などを経て、環境部長、企画財政部長、都市経営部長を務め、平成18年3月退職
平成18年4月から東京都市町村職員研修所特別講師
 登壇科目
  地方公務員制度、自治体法務入門、地方自治制度、地方財政制度、政策課題研究(ディベート・企画書)、後輩の指導、公務員倫理、仕事と人のマネジメント(JST)、地方公務員法、自治体経営、政策形成課題研究など
 その他
  このところはまっているもの
書・・・墨の醸しだす雰囲気がなんとも心地よい
庭いじり・・・木や石を相手になにせ時間がかかる
スポーツはゴルフを少々
 研修生へのメッセージ
  Where is the life we have lost in lives ?
Where is the wisdom  we have lost in knowledge ?
Where is the knowledge we have lost in information ?
<コラム>役所と民間の違い
  この半年ばかりの間に、民間の方と一緒の研修が何回かありました。  研修の合い間に、何人かの民間の方に聞いてみました  「役所と民間の違いってやっぱり利潤の追求の有無かな?」 意外な答えが返ってきました。  「儲けがなければ潰れちゃうけれど、儲けさえすればいいってもんじゃあないんですよ。  それよりも大事なことは、自分たちの仕事が世の中にどれだけ貢献しているのかをいつも忘れずにいることなんです。」  社会にいかに貢献するか  『使命感』  これが底流にしっかりとありました。  わたしたち公務員は「住民の福祉の向上」のために働いています。  そんなわたしたちが、よもや「安定」にかまけて、『使命感』を忘れているようなことはないでしょうか?  忘れてはいないまでも、薄らいでいる状況にあるような気がしてならないのです。
 基本に立ち返ってみましょう。
  研修情報誌「こだま」第91号(平成18年9月30日発行)より掲載
<研修のエッセンス>講義のツボ 仕事の醍醐味!「政策法務」
◆「政策法務」ってなに?
   それは、「自治体政策」+「自治体法務」のこと。それまでバラバラだった二つを融合させようとするもの。
どうしてバラバラだったかって?それはわが国の地方自治のあゆみに見ることができます。
 長い間、官治機構による統治が続いてきたわが国にとって、戦後、導入されようとした欧米型の地方自治制度は、そのままでは、指導者達にとってはとても受け入れ難いものでした。結局、機関委任事務という戦前の地方制度を残したかたちでの中央集権的な制度となり、自治体の長は、首長として選挙で選ばれながらも、一方で国の一機関それも下部機関とされて国の包括的な指揮監督を受け続けることとなったのです。
 国からの指示は詳細にわたり、自治体は自らが考えて処理することをほとんど必要とせず、「政策は中央、実施が地方」という認識が定着したのです。担当部門をみても「政策」は企画部門、「法務」は総務部門が担当し、相互の連携も決して十分とはいえず、バラバラだったのです。ですから、地域の特性を活かした独自の政策は、なかなか打ち出すことができずにいました。

〜当時を振り返って〜
 あなたは、自分の仕事にきちんとしたマニュアルができていて、○○と表示されている部分に自分の自治体名を入れれば済む、といった状況の時に、そのマニュアルそのものを再検討して、独自に作り上げてみようとしますか?
 加えて、そのマニュアルが権威あるところからのもので、トップも議員も黙ってしまういわゆるお墨付きのものだったとしたらどうですか?
 普通は、疑問を持たずに○○を埋めて済ますのではないでしょうか、私もそうでした。
 しかし、時にはそんなお決まり至上主義に悔しくて歯ぎしりをしながら仕事をしたこともありました。

 こうした状況を何とか打破しなければと、1980 年代に国から自立した「政策」+「法務」=「政策法務」の議論・研究に取り組んだのが、私たちの先輩である多摩地域の職員達でした。武蔵野学派と称された先輩たちの活動は、やがて政策実現の法的可能性についての研究へと進み、全国各地において政策法務の研究と実践が積み重ねられていきました。
 そして、平成12 年(2000 年)、地方分権改革によって、自治体は自らの政策を自らの責任で、企画・立案・決定し、それを実行して、その結果責任も自らが負うこととされました。
 これにより自治体は政策主体として法的にも自立し、自治体における政策法務は必要不可欠のものとなったのです。そして今日、政策法務はそれをいかに実践していくかの段階に入ってきました。

◆どうやって政策を作るの?
   「政策」とは「自治体政策」のこと。住民が幸せに暮らせるようにしていくための公共的課題の解決策のことです。この政策をいかに企画・立案していくかが最も重要であり、全てといってもいいかもしれません。
 政策のサイクルPLAN(政策形成)⇒DO(政策実施)⇒SEE(政策評価)を踏まえて政策形成過程をより詳細にみると 上図のようになります。

 この政策形成過程の中で、重要なのが「現状の把握」。これが徹底してできれば、あとは選択の問題となります。
 自治体が政策主体として位置付けられた地方分権改革から10 年、それまでは、がんじがらめの規制をかいくぐって工夫をこらしてみたり、要綱を駆使したりしてきましたが、いざ、何でもどうぞといわれてみるとかえって戸惑ったりもするようです。
 地域の特性にあった独自の政策を誰がどのように打ち出して行けばよいのでしょうか?
 これを担うのは私たち「職員」なのです。現場にいて、現場を知っているからこそ地に足のついた本物の政策が打ち出せるのです。「政策形成能力」を身に付けましょう。

〜本物を見抜く〜
 ○○手当などの現金給付策は住民に喜ばれるが、本当の政策とはいえないのではないか。例えば毎月納める所得税のうちの3万円が諸経費を引かれて2万6千円になって手当として給付されてくるとしたら、あなたはそれが本物の政策と思いますか。耳触りのいい政策、流行りの政策に惑わされない本物を見抜く眼を持ってほしいと思います。

◆作り上げた政策に法的根拠を持たせる
   政策法務の「法務」とは、「自治体法務」のこと。大切なのは、作り上げた 政策を実現させるために法務活動があるということです。それには形にとらわれないポジティブな姿勢が求められます。
 条例で活用できるいくつかの行政手法を使って制度設計をするわけですが、そうはいっても押さえておかなければならない点もあります。
それは、条例制定権の限界を知り、法規の決まりごとを踏まえることです。
 憲法(特に人権保障)に抵触しないこと、法令に違反しないこととはどういうことかを理解しましょう。
 また、条例の構成と形式については、長い歴史と立法・法解釈技術の蓄積により、職人的ともいえる「法制執務」が精巧に出来上がっています。全てをマスターするには時間と経験を要しますが、基本的なところを覗いてみるだけでもその後の「法律的ものの考え方」が違ってきます。

〜自己満足でよいのか〜
 理念条例といわれる条例が最近はあちこちで作られるようになってきました。しかしながら、作ることが目的となってしまった理念条例、メンテナンスがなされないままにあるというのはいただけません。
 掲げた理念に向かって現在どの段階にあるのかをきちんと検証し、議会や住民に情報提供をするような運用がなされないと「条例」という冠が泣きます。

 教科書のないといわれるこの時代に、自分たちで政策を作り出し、その政策に法的根拠を持たせて、その政策を実現していく、これぞ仕事の醍醐味!ではありませんか。

 おいでください「政策法務(基礎)」研修、お待ちしています。
研修情報誌「こだま」第100号(平成22年10月1日発行)より掲載